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孫正義とは何者か——みかん箱の上で「1兆、2兆」と吠えた男が、68歳でAIに全賭けするまで

話題

OpenAIへの出資は累計646億ドル(約10兆円)。米国に78兆円規模のAIデータセンター網「スターゲート」を建設中。ソフトバンクグループを率いる孫正義は、68歳にして人生最大の勝負の真っ最中にいる。

「投資の神様」と呼ばれたかと思えば、「史上最大の損失男」とも呼ばれる。評価が極端に割れるこの男の本質は、実は創業の日から一度も変わっていない。アルバイト2人の前で「1兆、2兆と数える会社にする」と吠えた19歳…もとい24歳の青年が、そのままのテンションで50年走り続けているだけなのだ。肩書ではなく、エピソードでこの男をたどる。


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基本プロフィール

項目 内容
本名 孫正義(そん まさよし / Masayoshi Son)
生年月日 1957年8月11日(佐賀県鳥栖市生まれ・68歳)
出自 在日韓国人3世として生まれ、のちに日本に帰化。幼少期は線路脇のトタン屋根の家で育ったと本人が語っている
学歴 16歳で渡米 → カリフォルニア大学バークレー校 経済学部卒
創業 1981年、福岡で日本ソフトバンク設立(24歳・従業員はアルバイト2人)
座右の銘 「志高く」。自称は「世界一の大ぼら吹き」

伝説①:16歳、「教科書で見た人」に直接会いに行く

高校1年の孫少年は、日本マクドナルド創業者・藤田田の著書に感銘を受け、東京のオフィスに「会ってください」と電話をかけまくった。秘書に何度断られても引かず、ついに面会をもぎ取る。

「これから何をやるべきですか」と問う16歳に、藤田は「コンピュータをやりなさい」と答えた。孫はその言葉どおり高校を中退して渡米し、バークレーに進む——という、自己啓発本なら捏造を疑うレベルの話だが、本人と藤田側の双方が語ってきた実話である。

在学中には「1日5分だけ発明に使う」と決めて発明ノートを量産し、音声付き電子翻訳機を開発。これをシャープに約1億円で売却して起業資金を作った。学生起業で言えば、現代のどのスタートアップ神話よりも早くて荒い。

出典: 孫正義本人の講演・インタビュー(藤田田面会・翻訳機売却は本人が繰り返し語る定番エピソード)/Wikipedia「孫正義」/井上篤夫『志高く 孫正義正伝』

伝説②:みかん箱の上の「1兆、2兆」演説——社員2人が逃げた

1981年、福岡の雑居ビルで日本ソフトバンクを創業した24歳の孫は、初日にみかん箱(りんご箱とも)の上に立ち、アルバイト2人を前にこう演説した。

「うちは30年後、豆腐を数えるように1兆、2兆と売上を数える会社になる」

みかん箱の上で演説する創業当時の孫正義(イメージ)
創業初日の「1兆、2兆」演説。聞いていたアルバイト2人はまもなく辞めた(イメージイラスト)

この演説を聞いたアルバイト2人は「社長はヤバい人だ」とまもなく退職した。だが実際、ソフトバンクグループの売上高はのちに6兆円を超え、投資会社化した現在は純利益を兆単位で数える会社になっている。大ぼらが実現してしまった、日本のビジネス史でも稀有な例だ。

出典: 孫正義本人の講演・ソフトバンクグループ公式サイト「孫正義の履歴書」ほか(みかん箱演説は本人・関係者証言で広く知られるエピソード)

伝説③:6分で決めたアリババ出資——投資史上最大級のホームラン

2000年、中国の無名起業家ジャック・マーと面会した孫は、話を始めてわずか数分で出資を決めた。本人いわく「目の輝きで決めた。動物的な勘だ」。

このとき投じた約20億円は、アリババの上場と成長を経て一時十数兆円規模の含み益に化けた。投資リターンにして数千倍。ベンチャー投資の歴史でも最大級の一発とされる。

補足:「勘」の裏にある行動量
6分の決断ばかりが有名だが、当時の孫はインターネット企業への投資で中国を含む数百社と面談を重ねていた。サンプル数を積んだ上での「勘」であって、宝くじではない——というのが投資業界での一般的な評価だ。
出典: 孫正義・ジャック・マー両者の対談・インタビュー(出資額・面会エピソード)/アリババ上場時の各種報道

伝説④:「ガソリンをかぶって火をつける」——役所を脅した男

2001年、ブロードバンド事業「Yahoo! BB」参入時のこと。NTTの回線開放が進まないことに激怒した孫は、監督官庁の総務省に乗り込み、担当者の前でこう言い放ったとされる。

「今すぐ回線を開放しないなら、ここでガソリンをかぶって火をつける

本人がのちに認めている実話である。結果としてADSLの低価格競争が起き、日本のブロードバンド料金は世界最安水準になった。さらに2006年には英ボーダフォン日本法人を約1.75兆円で買収(当時日本最大級のLBO)し、スティーブ・ジョブズに直談判してiPhoneの国内独占販売権をもぎ取った。「携帯参入は無謀」と言われた勝負を、iPhoneで全部ひっくり返した形だ。

出典: 孫正義本人のインタビュー・国会答弁等(ガソリン発言は本人が認めた発言として広く報道)/ボーダフォン買収・iPhone独占販売の各種報道

謎:なぜ何度大損しても退場しないのか

孫の投資人生は、ホームランと三振の振れ幅がとにかくデカい。主な勝負の成績表を見てみよう。

勝負 結果
アリババ出資(2000) 🟢 約20億円 → 一時十数兆円。史上最大級のリターン
ITバブル崩壊(2000-01) 🔴 株価ピーク比99%減。個人資産も紙くず寸前に
ARM買収(2016) 🟢 約3.3兆円で買収 → 上場後の時価総額は数十兆円規模に成長
WeWork投資(2017-19) 🔴 1兆円超を投じ経営破綻。「私の投資判断が悪かった」と公式に謝罪
NVIDIA株の早売り(2019) 🔴 全株売却後に株価は数十倍へ。「逃した魚」は10兆円級
OpenAI・スターゲート(2025-) ⏳ 累計646億ドル出資+78兆円計画。目下進行中の「最後の大勝負」

ビジョン・ファンドの失敗が続いた2019年度の決算会見で、孫は反省を口にしつつこう付け加えた。「反省はする。しかし萎縮はしない」。NVIDIA株を早売りした痛恨については、当のジェンスン・フアンCEOとの公開対談で「マサ、一緒に泣こうか」と肩を貸される一幕まで生まれた(ジェンスン・フアン回で詳報)。

退場しない最大の理由は、失敗を「隠さない」からだ。損失を自分の口で数字ごと発表し、笑い話に変換し、次の勝負の資金調達に行く。この回転の速さが、日本の経営者では他に類を見ない。

ちなみにX(旧Twitter)で「ハゲの進行が早まっている」と煽られた際の返しは「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」。この切り返し1つで炎上をファン獲得に変えた。損失対応と同じ型である。
出典: ソフトバンクグループ決算会見(2019年度)/孫正義本人のX投稿(2013年)/NVIDIA AI Summit Japan(2024年11月)対談

現在地:68歳の「AI全賭け」

そして2026年。孫はキャリアの総決算として、OpenAIとAIインフラに文字どおり「全賭け」している。

OpenAI出資:2026年2月に300億ドルの追加出資を決定。累計コミットは646億ドル(約10兆円)。2026年7月1日には第2弾の100億ドル(約1.6兆円)を払い込み
スターゲート計画:OpenAI・Oracle等と共同で、4年間に5,000億ドル(約78兆円)を投じ米国にAIデータセンター網を建設。オハイオ州の拠点は2026年中に稼働予定
直近業績:2026年3月期 第3四半期の純利益は3兆1,727億円(前年同期比約5倍)。OpenAI株の評価益が押し上げ
⚠️ 市場の見方:「OpenAIへの集中しすぎ」と流動性リスクを指摘する報道も続く

かつての「300年成長し続ける企業」ビジョンに対し、近年の孫は「自分の残り時間」を公然と口にしながら、ASI(人工超知能)の実現に会社ごと張っている。みかん箱の上の大ぼらから45年、ほらの単位が「兆」から「超知能」になったと言うべきか。


💀 孫正義が示す生存の「仕様書」

トタン屋根の家に生まれ、差別に悩んだ少年が、日本一の富豪になり、2度ほぼ全部を失いかけ、68歳で人類史最大級のインフラ投資を指揮している。

孫の型はシンプルだ。①デカすぎる目標を先に宣言する ②届かなければ「時代が追いつくまで」待つか張り増す ③失敗したら数字ごと開示して次へ行く。「大ぼら吹き」を自称するのは、ほらを吹いた瞬間から実現までの距離が「宿題」に変わることを知っているからだ。

最後の大勝負であるAI全賭けが、アリババになるのかWeWorkになるのか。答えが出るのはこれからだが、少なくとも1981年のアルバイト2人のように「途中で降りた」人間には、答え合わせの権利がない——それが孫正義という装置の怖さである。

出典: ソフトバンクグループ公式プレスリリース・決算資料/日本経済新聞・Bloomberg(2026年のOpenAI出資・スターゲート報道)/孫正義本人の講演・対談・X投稿/井上篤夫『志高く 孫正義正伝』/Wikipedia「孫正義」ほか各種報道。記事内イラストは生成画像(イメージ)。

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