「ライドシェア解禁」の半年後、誰が勝ったのか

巨大なタクシーの上にちょこんと乗せられて運ばれる小さな自家用車——業界が手なずけたライドシェアの構図 話題

2023年秋、街からタクシーが消えた。「乗れない」「捕まらない」という悲鳴に乗じて、長年タブー視されてきた一般人による有料送迎「ライドシェア」の解禁論が一気に噴き出した。当サイトも10月、「自家用車で客を送迎する『ライドシェア』の導入検討へ」という見出しを立てている。

ネット上では「既得権益のタクシー業界はこれで終わり」「白タク全面解禁だ」と推進派が沸き立ち、業界トップは「多勢に無勢で辛い」と涙目になった。しかし半年後の2024年4月、実際に始まった制度で笑っていたのは、壊滅するはずだったタクシー会社だった。当時の見出しと国会会議録などの公的記録を突き合わせ、誰の予想が当たり、何が外れたのかを答え合わせする。

スポンサーリンク

2023年10月〜2024年4月、この見出しが並んでいた

日付 当時の見出し
2023-10-19 【大阪万博】自家用車で客を送迎する「ライドシェア」の導入検討へ 吉村知事が表明
2023-11-14 小泉進次郎元環境相「私はライドシェア推進派ではありません。タクシーとの共存派です」「いま世の中は移動で困っている」
2023-12-07 「ライドシェアありきであまりにも拙速。多勢に無勢で辛い」タクシー連合会会長が批判
2024-02-02 タクシー業界、ライドシェアに続々参入 「隙間時間に」と運転手募集
2024-03-27 福岡県警 バスやタクシー運転の第2種免許の学科試験 英語中国語・ベトナム語・ネパール語で受験可能に 全国初
2024-04-10 【タクシー】今日から「ライドシェア」都内の一部地域でサービス開始 全国で順次スタート

この6本は、論争の激化から制度開始までの半年間の推移をそのまま映している。国会答弁と政府決定から、その結末を追う。

【当たり】2024年4月、「ライドシェア」は本当に始まった

「どうせ業界の反対で骨抜きになって立ち消える」というネットの冷笑をよそに、2024年4月8日、東京都内(特別区・武蔵野市・三鷹市)で「自家用車活用事業」としてライドシェアが正式にスタートした。斉藤鉄夫国土交通大臣や河野太郎規制改革担当大臣らが出席して出発式が開かれ、その後、京都・名古屋・福岡など全国の主要都市へと順次拡大された。

時期 起きたこと
2023年10月23日 岸田首相が所信表明演説で「ライドシェアの課題に取り組む」と明言
2023年12月20日 政府のデジタル行財政改革会議でタクシー会社管理下の「自家用車活用事業」方針を決定
2024年3月29日 国土交通省が自家用車活用事業の創設通達を発出
2024年4月8日 東京都内で日本型ライドシェアの運行開始(斉藤国交相らが出発式に出席)
2024年6月19日 国交省が国会で「全国約800の自治体で検討され、13地域で運行中」と答弁

岸田内閣総理大臣も参院決算委員会で「移動の足、解消のために今四月から自家用車活用事業等の事業をスタートさせている」と答弁している。「4月からサービス開始」という見出しのスケジュールは、予定どおり現実に動いた。

【外れ】「Uber型」の全面解禁は、1ミリも動かなかった

では、始まった中身はどうだったのか。当時、推進派が期待し、反対派が恐れていたのは「一般人がアプリを使って自由に自家用車で有料客を運ぶ」という、米国や東南アジアで普及しているUberやGrabのような全面解禁(新法制定)だった。

しかし、この形態は政府によって完全に拒否された。斉藤鉄夫国土交通大臣は参院予算委員会でこう言い切っている。

「いわゆるライドシェアが、運行管理や車両整備等について責任を負う主体を置かないままに自家用車のドライバーのみが運送責任を負う形態で旅客運送を有償で行うことを意味しているのであれば、従前から国会で答弁しているとおり、安全の確保、利用者の保護等の観点から問題があるため認めることはできない」
— 斉藤鉄夫国土交通大臣(2023年11月27日 参院予算委員会)

海外型のライドシェアを法律を新設して導入する「新法ライドシェア」の議論は、2024年5月30日に岸田総理、斉藤国交相、河野規制改革相の3者会談で「特定の期限を設けず、モニタリング検証を先行する」と合意され、事実上の無期限先送りとなった。「白タク合法化」「海外型サービスの全面解禁」という読みは完全に外れた。

【当サイトの外れ】「多勢に無勢」と泣いていたタクシー業界の完全勝利

2023年12月、全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋会長が勉強会で「ライドシェアありきであまりにも拙速。多勢に無勢で辛い」と訴えたニュースを、当サイトも報じた。当時のスレでは「タクシー利権オワタ」「往生際が悪い」といった嘲笑があふれた。

見出しは悲鳴を拾ったが、結果はタクシー業界の「総取り」だった。
・運行管理・点呼・車両整備の責任主体は「タクシー会社」に限定
・運賃は既存のタクシー運賃と同額(安売り競争の排除)
・配車はタクシー会社の管理下で、配車アプリ等を利用
・運行できる地域と時間帯は、国交省が「タクシー不足」と認定した枠内のみ

運行主体として新規参入を狙っていたIT企業や異業種は締め出され、ライドシェアドライバーを雇って走らせる権利は既存のタクシー会社が独占した。それだけではない。タクシー業界は「多勢に無勢」と被害者を演じながら、自らの規制緩和を政府に丸呑みさせた。

昭和45年以来、東京・大阪などの都市部でドライバーの就業障壁となっていた「地理試験」が2024年2月に全国で廃止された(国交省自動車局長答弁)。さらに警察庁は、外国人ドライバーを確保したい業界の要望に応じ、第2種運転免許の学科試験を多言語化するための問題例(20言語)を全国の警察に配付した(国家公安委員長答弁)。

小泉進次郎氏が2023年11月に語った「推進派ではなくタクシーとの共存派」という言葉どおり、タクシー業界は競合を迎え撃つどころか、自社の傘下にライドシェアを取り込み、長年の規制緩和まで手に入れた。見出しの「多勢に無勢」は、政治的な交渉戦術としては満点だったが、業界の先行きとしては真逆の結末になった。

【不正確】万博は「自家用車ライドシェアの実験場」にはならなかった

2023年10月、大阪府の吉村洋文知事は「自家用車で客を送迎するライドシェアの導入検討へ」と表明し、2025年の大阪・関西万博をその舞台に据える考えを示した。日本維新の会はこれをテコに新法による全面解禁を強硬に主張した。

万博輸送の実態
経済産業省および国土交通省の国会答弁(2024年5月24日 衆院経産委)によると、万博会場への輸送は「電車・バスなどの大量輸送が可能な公共交通機関を中心に検討」され、一般車両の流入はむしろ交通需要マネジメント(TDM)によって抑制・分散させる方針が確認されている。

夢洲という限られた埋立地に、一般人の自家用車が客を乗せて次々と乗り付ければ大渋滞と安全混乱を招くのは自明だった。吉村知事の見出しは「万博でライドシェアが本格導入される」という期待を煽ったが、最終的に認められたのは全国共通の「タクシー会社管理下の自家用車活用」枠組みにとどまり、万博が「Uber型自由運行の実験場」になる構想は不正確に終わった。

答え合わせ一覧

2023〜2024年に言われていたこと 判定
2024年4月にライドシェアがサービス開始 ◎ 当たり(4月8日都内で開始)
海外のような一般人ドライバー全面解禁(Uber型) × 外れ(新法検討は無期限先送り)
小泉進次郎氏「推進派ではなくタクシーとの共存派」 ◎ 当たり(タクシー会社管理下で制度化)
タクシー業界は多勢に無勢で壊滅する × 外れ(管理権独占+地理試験廃止の完勝)
大阪万博で自家用車ライドシェアを全面導入 △ 不正確(大量輸送は鉄道・バス中心)
2種免許の学科試験が外国語で受験可能になる ◎ 当たり(警察庁が20言語の問題例を配付)

6項目中3項目が当たり、2項目が外れ、1項目が不正確。騒動の最大の皮肉は、「黒船襲来で既得権益が崩壊する」と騒がれた結末が、既得権益側が黒船を手なずけて自らの規制緩和まで勝ち取ったことだった。「多勢に無勢で辛い」という言葉の裏で、霞が関と業界が描いた着地点は最初から揺るぎなかった。

出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました