2023年、岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出した。財源の話になった途端、見出しは「社会保険料に上乗せ」「実質増税だ」で埋まった。政府の説明は一貫して「実質的な負担を生じさせない」だった。
あれから3年。子ども・子育て支援金の徴収は2026年4月分から始まり、5月納付分の給与から実際に引かれている。料率は全国一律0.23%。当時の見出しを並べて、どれが当たり、どれが外れたのかを、公表されている数字だけで確かめる。
2023〜2024年、この見出しが並んでいた
当サイトの少子化関連記事から、財源の話に絞って時系列で並べる。
| 日付 | 当時の見出し |
|---|---|
| 2023-02-21 | 岸田文雄首相「少子化、反転させたい」 |
| 2023-04-05 | 【政府】「異次元の少子化対策」加速化プラン発表 財源に社会保険料引き上げ検討 |
| 2023-05-26 | 少子化対策3兆円 1兆円は社会保険料上乗せで確保の方向で調整 |
| 2023-09-13 | 少子化財源「消費税引き上げも有力な選択肢」 経団連が異例の提言 |
| 2023-10-12 | 【経団連】自民に消費税増税求める 少子化対策で「国民全体が負担する財源検討を」 |
| 2023-12-17 | 対象世帯は1割…子ども3人以上「大学無償化」、少子化へ効果は |
| 2024-02-04 | 「異次元の少子化対策」財源の支援金制度 26年度に6000億円を徴収し段階的に引き上げへ |
このうち、2026年8月時点で答えが出ているものが5本ある。
【当たり】財源は、そのまま社会保険料に乗った
2023年4月の「財源に社会保険料引き上げ検討」と、2024年2月の「26年度に6000億円を徴収」は、そのまま実現した。
| 項目 | 実際 |
|---|---|
| 徴収開始 | 2026年4月分(5月納付分)から |
| 支援金率(被用者保険) | 全国一律 0.23%(労使折半のため本人分は0.115%相当) |
| 1人あたり平均月額(政府試算) | 2026年度 250円 → 2027年度 350円 → 2028年度 450円 |
| 徴収総額 | 2026年度 約6,000億円 → 2028年度に1兆円規模へ |
「新しい税を作る」ではなく「既存の医療保険料に上乗せする」という形も、当時報じられたとおりになった。取り方の設計だけは、3年前の見出しから1ミリも動いていない。
【判定】「実質的な負担を生じさせない」は、料率表で確かめられる
批判の的になり続けたのが、政府の説明のほうだった。岸田首相は2024年4月16日の衆院特別委員会で、こう答弁している。
— 岸田文雄内閣総理大臣(2024年4月16日 衆院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会)
歳出改革で保険料が下がり、その下がった幅の中に支援金が収まるから差し引きゼロ、という理屈である。この主張は検証できる。協会けんぽが料率を公表しているからだ。東京都の場合はこうなった。
| 項目(協会けんぽ 東京都) | 令和7年度 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| 健康保険料率 | 9.91% | 9.85%(▲0.06) |
| 子ども・子育て支援金率 | — | +0.23%(新設・全国一律) |
少なくとも2026年度の協会けんぽ東京都支部の料率で見るかぎり、「軽減効果の範囲内」には収まっていない。ただし政府答弁は個人ではなく制度全体(マクロ)の話として組まれており、料率1年ぶんの比較がそのまま反証になるわけではない。2024年5月28日の参院連合審査でも、この「マクロの話であって一人一人の実感とは別」という点が争点になっている。
判定は△にしておく。断定できるのは「引かれ始めた」ことと「下げ幅より上乗せ幅が大きい」ことまでで、これを「嘘だった」と言い切るには、歳出改革の効果を制度横断で積み上げた数字が要る。ただし、給与明細を見た人が「話が違う」と感じるだけの根拠はある。
【外れ】少子化は反転しなかった
2023年2月の「少子化、反転させたい」に対して、当時のレスは冷ややかだった。結果は数字が出ている。
| 年 | 出生数 | 合計特殊出生率 |
|---|---|---|
| 2023年 | 72万7,288人 | 1.20 |
| 2024年 | 68万6,173人(初の70万人割れ) | 1.15 |
| 2025年 | 67万1,236人 | 1.14(10年連続低下) |
ただし減り方の勢いは落ちている。2024年までは前年比5%超の減少が続いていたが、2025年は2.2%減にとどまった。婚姻件数は2年連続で増え、2025年は0.8%増の48万9,119組だった。反転はしていないが、落ち方は変わった。数字の全体像は出生率1.20——数字で見る日本の人口問題にまとめてある。
【外れ】消費税増税にはならなかった
2023年秋、経団連は2度にわたって消費税を財源に挙げた。「消費税引き上げも有力な選択肢」(9月)、「自民に消費税増税求める」(10月)。当時のスレは「増税一直線」で埋まっていた。
もっとも、これを「増税を止めた」と読むかは別の話である。消費税なら国会で税率を議論することになるが、医療保険料への上乗せは料率の改定で済む。取る額は同じでも、通す場所が変わった。
答え合わせ一覧
| 2023〜2024年に言われていたこと | 判定 |
|---|---|
| 財源は社会保険料への上乗せになる | ◎ 当たり(0.23%・2026年4月分から) |
| 26年度に6,000億円を徴収する | ◎ 当たり |
| 「実質的な負担は生じない」 | △ 下げ幅より上乗せ幅が大きい |
| 少子化を反転させる | × 外れ(3年連続で最少更新) |
| 財源は消費税増税になる | × 外れ(税率は据え置き) |
当時いちばん盛り上がったのは「増税か否か」だったが、3年たって残ったのは「増税ではない形で、毎月引かれている」という状態だった。消費税なら税率の議論として国会に出るものが、料率の改定として給与明細に出た。見出しが追いかけていたのは金額ではなく名前のほうで、名前が変わったら追いかけるのをやめた——これが3年ぶんの答え合わせで、当サイトにいちばん刺さるところである。
出典
- 子ども・子育て支援金制度について(こども家庭庁)/支援金率・1人あたり平均月額の試算・徴収スケジュール
- 令和8年度の協会けんぽの保険料率(全国健康保険協会)/都道府県別料率・支援金率0.23%
- 令和7年度の協会けんぽの保険料率(全国健康保険協会)
- 岸田文雄内閣総理大臣 答弁(2024年4月16日 衆院特別委員会・国会会議録検索システム)/「実質的な負担を生じさせない」
- 倉林明子議員 質疑(2024年5月28日 参院 内閣委員会・厚生労働委員会連合審査会)/マクロの話であるという指摘
- 令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況(厚生労働省)/2023・2024年の出生数と合計特殊出生率
- 令和7年(2025)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚生労働省)/2025年の出生数・婚姻件数
- 25年出生率は過去最低1.14、10年連続低下(日本経済新聞)/減少ペースの鈍化




コメント
「実質」が頭につく様な発言は詐欺と同じ